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財務次官セクハラ問題を論じる

授業が始まる前,何人かの学生が世間話してたんですけど,そんな彼らが体育教員である私にこんな質問をしてきました.
「愛媛で脱走した脱獄犯ですけど,きっと海を泳いで逃げたんだと思うんですよ.先生が脱獄犯なら,どうやって泳ぎますか?」
って聞かれたんで,
「ん〜〜,そうだなぁ,『平泳ぎ』だね」
って答えました.

そしたら互いに向き直って,
「ほらなっ,ほらなっ,先生も言ってるじゃん.やっぱり長距離は平泳ぎなんだっつーの」
って盛り上がってるんです.

私としては容疑者の名前を使ったダジャレのつもりだったのですけどね・・・.
脱走の平尾容疑者、翌日にドラッグストアで牛乳や菓子購入(産経WEST 2018.4.16)
実際のところ,渡海するつもりなら浮き輪かチューブみたいなものを抱いて,休みながら泳ぐと思いますよ.そうじゃないと高確率で死ぬから.


びっくりニュースがテンコ盛りな昨今ですが,最近はこれに「財務次官セクハラ問題」が急浮上してきました.これだけの浮力があれば瀬戸内海を渡るのも怖くない.
財務次官、セクハラ疑惑で更迭(時事ドットコム 2018.4.19)

私もネットニュースをつまみ食いしてみたんですけど,なんとも情けない話です.
更迭で済んで良かったですね.いやホントに.

ところが,このセクハラ問題について斜め上を行く「財務次官(福田)擁護論」を説く方々が結構いらっしゃるようです.
なんでも,「女性記者にも問題がある」とか「セクハラの存在を知りながら取材を継続させた記者の上司が悪い」とか「これはハニートラップだ」とか.

どれもこれも,まるで次官擁護になっていないのが哀しいところですが,これらを説く方々の声がかなり大きいので,この際,箴言しておこうと考えました.

まず,そもそもの話として,この福田財務次官は「記者を相手に,セクハラをした覚えはない」ときっぱり明言していたのにも関わらず,証拠がボロボロと出て来る事ここに至ってセクハラを認めたわけですね(建前としては「職責を果たせる状況ではない」という理由で更迭の扱い).
つまり,己の罪を自覚していながら,その指摘に対し,言い逃れるための嘘をついていたのです.

この時点で完全アウト.もう救いようがありません.
せめて一番最初に「記者に不快な思いをさせていたのであれば,これからご本人と協議・相談し,事実確認をしてから,改めてご報告したい」などと言えば良いものを.
ましてや,「セクハラだというのであれば,被害女性が名乗り出てくるべきだ」などと,セクハラ対応としては最低最悪の態度をとりました.
これだけ企業・団体等にセクハラ対応ガイドラインが普及している昨今,財務省がダメダメというのも面白いですね.

マッチョなウヨク系の方々は「被害者が名乗り出ずに訴えられるのであれば,セクハラ被害はなんとでもでっち上げられる」と息巻いていましたが,おおよそ常識的対応感覚があればバカな話です.
面倒くさいので今回は割愛しますが,今後もそのような感覚でセクハラに対応していくつもりであれば,その態度は極めて危険なので改めることを強く推奨します.

ところで,これは行政を司る本体である「安倍政権」にも言えることですが,このような不祥事が出てくる度に,なぜに後々になって致命傷となることが確定的な言い訳・言い逃れをするのか?
これは私の邪推ですが,安倍一強と呼ばれるこの状況では,政治家も官僚も「安倍政権に忖度しておけば,少々のことをしたって誤魔化せる.もみ消せる」という驕りや楽観視があるのではないか.
今回のセクハラ問題にしたって「被害者が名乗り出てこい」などという,おおよそ性犯罪に対する一般常識的な対応とはかけ離れた態度がとれたのも,そうした特権意識があったからではないかと思いたくもなります.

さて,今回の騒動について「女性記者にも問題がある」とか「セクハラの存在を知りながら取材を継続させた記者の上司が悪い」といった指摘もありますが,たしかに女性記者「本人」にとっての幸福を考えれば,一連の行為には「セクハラを受けても取材を継続する」とは異なる別の選択肢があったのかもしれませんね.それは認めます.

セクハラを我慢して取材を続けなくても,この担当から外れることだってできただろうし,上司に文句を言うことだってできる.しかし,こうした選択肢はこの女性が「記者」という仕事を続けていく上で,天秤にかけるものが多過ぎることが容易に察せられます.
つまり,現時点での現実問題として,この女性記者に「財務次官への取材が不愉快だから辞める」という選択肢がとれたのか?ということ.

この記者の上司に対する批判も当然認められるでしょう.セクハラを知りながら,それでも継続させたことは,社員の扱いとして批判されるに値すると私は思います.
こういったことは,例えば家庭内暴力や浮気に悩む妻が,夫と離婚したいんだけれど子供の事を考えたら離婚できないと考えて結婚生活を継続しているようなものです.
それに対し,姑が「今は子供のためにも耐えてちょうだい.夫婦生活にはそういうことだってあるわ」と言うことだってあるでしょう.
妻一人の幸福を考えたら離婚するのも手段の一つでしょうし,それが最善と考える人もいますが,それを最善とは考えない人だって当然いるわけで.
セクハラを受けても取材を継続する記者というのは,本質的にそれと一緒です.

ですが,これらはあくまでも女性記者本人とテレビ朝日内部の問題.それによって福田財務次官のセクハラ行為に情状酌量の余地が出てくるわけではありません.
話し相手が嫌な顔をしない(という主観的感覚があった)からといって,他人に卑猥な言葉を浴びせていいことにはならないからです.
私だって誰だって,話し相手がバカバカしいことを言ってきたからって露骨に不愉快な顔をすることは少ないでしょう.でも,それを良い事に「コイツなら何を言っても大丈夫」と思われるのは心外です.
そんなこと,一般常識がある人なら,まして一国の事務次官ともあろう者であれば心得ておいてほしいことです.

「今回のセクハラ事件は,ハニートラップではないか」などとアクロバティックな事を言い出す人もいます.
財務次官から卑猥な言葉をかけられても何度も近づいて,居酒屋で飲みながら取材する,なんてのは,女を武器にした取材じゃないのか,って論法です.

ハニートラップですって.
バカじゃないの?
むしろ良かったですね.ハニートラップじゃなくて.
もし本当にハニートラップだとしたら,「セクハラで訴えられる」だけで済んで良かったと言えます.
別に皮肉じゃありません.

だって,考えてもみてください.もしこれが女性記者によるハニートラップなんだとすれば,日本国の財務省事務次官は,この度,見事にハニートラップに引っかかったということですよね.
それはそれで極めて重大な不祥事です.人事権を握っている人には,ぜひとも責任をとって頂きたい話です.
ましてや今回は,トラップにかかっただけでは飽き足らず,事務次官自らセクハラ認定されるような卑猥な言葉をかけちゃってるんだから世話ない.
二重三重に残念な話です.

「これはハニートラップだ」と女性記者を非難している人達は自覚があるのでしょうか?
それは福田財務次官の罪をさらに晒し出し,その監督者である安倍政権の責任を問うているということを.
まあ,そのつもりで言ってるんだったらそれはそれで良いのですけど.

仮に今回のこの女性記者やその上司(と,テレビ朝日サイド)が,ハニートラップみたいなものを仕掛けた自覚があったのだとしましょう.
だとしても,それは悪いことなんですか?

ハニートラップに引っかかるようなバカが財務次官をやっていることが白日の下になったわけですから,ある意味でスクープですね.テレビ朝日さん,おめでとうございます(でも,それだとおかしいな.週刊新潮に垂れ込んだんですよね).

なにはともあれ,今後,財務省およびその任命責任者は,記者にセクハラ発言をするような奴を管理職に置かないよう注意していただきたいですし,それをもみ消そうとしないでいただきたいですね.
それが今回の事件から得られた教訓です.あまりに次元が低い気もするけど.

あっ,もしかするとこの女性記者,ハニートラップで財務省の重大ネタを掴んでいるかもしれません.
それが出てきたら「ハニートラップ」として認定してもいいかも.


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