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体育学的映画論「0.5ミリ」

チャンネルが合わないと全然おもしろくない映画です.
たぶん,私も10年前の自分ならおもしろくないと思ったはず.
30代という,この歳になったからこそハマった映画と言えます.
0.5ミリ(wikipedia)

チャンネルが合った映画ですので,何か評論しようって話ではないのかもしれません.
映画で捉えているものが,すんなり入ってきます.
久々に凄い映画を見た.いやぁ~,ええもん見たなぁって思える映画には,なかなか出会えるものではないですから.

にしても上映時間が長い.3時間超え.
でも,あっという間に感じるほどのめり込めます.

この『0.5ミリ』の原作者であり監督をした安藤桃子氏は私と同世代です.
小説版が2011年,映画は2014年に撮られたもので,2017年現在における我々「30代半ば」の者たちがなんとなく感じている「世代の見方」を写し撮っているように思います.
逆に,おそらくは20代以下の人が見ても退屈と感じる映画です.

30歳くらいになったら,以前にも増して世代間の違いを意識するようになってくるんですよ.それは別に「違い」を評価しようっていうわけじゃなくて,意識するってことです.
中年や高齢者との違いはもちろん,この歳になると20歳くらいの人との年齢差を感じるようになる.それも同じ民族・文化圏で育った者同士での差を感じるわけです.

劇の終盤で,主人公がつぶやきます.
「死にそうな爺さん相手にしてるとさ,時々思うの.私の知らない歴史を生きてきた人が,おんなじ世界に生きているんだなって.戦争とか私知らないし.今日生まれる子も,明日死ぬ爺さんも,みんな一緒に生きてんだよ.お互いにちょっとだけ目に見えない距離を歩み寄ってさ.心で理解できることってあるんだね」

あぁ,分かる分かるその感覚.
以前は頭で理解できていたことですが,最近は心の底からそう思うようになりました.
歴史を大切にするっていうのは,史実を追い求めたり知識を整理することではなくて,その民族と社会の生き様を語り継ぐことなんだなぁって.

劇中に出てくる老人たちとのエピソードは,どれも破天荒なものばかりですが,実はいずれも「普通」な人たちなんです.
そこら辺に住んでいる普通の老人に目を向けると,普通でないものが見えてくる.「介護」がそれを浮き彫りにさせます.

簡単に言えば「お年寄りを大切にしよう」という映画なのですけど,こうしたテーマとメッセージをきちんと取り扱った映画はほとんどないんじゃないでしょうか.
もっと広く捉えるなら,「人のことをちゃんと考えてあげよう」というのがテーマだとも思います.
介護とか高齢者は呼び水にすぎない.大事なのは「人」とどのように対峙するかです.

この点について,あえて焦点を絞らず,大きく切り取ってきたからこその3時間超えなのでしょう.
でも,じっくり腰を据えて見る価値はありました.私はこれくらいの長さで一気に見るのが丁度いいと思います.

ところで,この映画のロケ地は,私の地元である高知です.
映画を見ながら,「あっ,サニーマートだ.ここはフジグランの中だ.種崎海岸だ」と楽しくさせてくれます.
監督の安藤桃子氏は,この映画撮影を機に高知に移住したとのこと.
(実は)日本最大の映画県に移住されるとは,なかなかお目が高い映画監督です.
最近は高知市内に映画館を作ったというニュースがありましたね.
高知と映画(全体とは部分の総和以上のなにかである)

なお,この『0.5ミリ』では,土佐弁による演技は一切ありません.
変な土佐弁で演技するより,まったく触れなかったのはいい選択でした.
地元民としては好評価です.