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いじめの正体

待ちに待った和田慎市先生の新著が出ました.
これまでにも当ブログで記事にさせていただいている,和田先生の新刊です.


和田先生のホームページはこちら.
先生が元気になる部屋(和田慎市ホームページ)

和田先生とは,当ブログをご縁に,何度か直接お会いして情報交換をさせてもらっています.
最近は,現役の高校教諭の先生方を交えた会として盛り上がっております.
学校教育対談(2回目)
学校教育対談(3回目)
学校教育対談(4回目)

ありがたいことに和田先生から本書を献本いただきましたので,早速読んでみました.
これまでにお話いただいていた「いじめ問題」がまとめられており,とても有意義な内容です.
帯には「『いじめは絶対になくならない』ここから出発する以外に,いじめ克服の道はない」とありますが,まさにその通り.
教育現場でいじめ問題を取り扱ってこられた和田先生からの,実用的な提言が並んでいます.

特に,第2章は「いじめ問題」を考える上では重要な示唆を得られます.
「いじめに関する7つの誤解」と題されたここでは,
1.いじめは根絶しなければならない
2.児童生徒の自殺は,いじめが原因である可能性が高い
3.いじめは犯罪だから法制強化し,厳正に対処する
4.いじめかどうかは被害者の判断による
5.学校(教師)は,いちはやくいじめに気づくはずである
6.学校は隠蔽体質なので,いじめはすべて保護者・教育委員会に報告する
7.重大ないじめは,積極的に外部機関に解決を依頼するとともに,世間にも広く伝えるべきである
といった,よく見聞きするこれら7点が,学校現場の実態から非常に乖離したものであることを説明してくれています.

難しい話ではありません.
ようするに,世間一般の皆さんが思うほど,
「いじめ問題は簡単ではない」
「子供の自殺は単純ではない」
ということを丁寧に解説した本です.

学校現場に携わっている方々からすれば,当たり前すぎて「何を今更」と思われることかと思いますが,いやいや,世間一般では本書で取り上げられていることが「当たり前」ではないから問題なのです.
だからこそ,本書は学校現場ではない人が「いじめ問題」を考える上で手にしてほしいですね.
もしくは,学校教育に携わっているものの,世間一般の方々との認識のズレに悩まされている先生方にもヒントを与えてくれるでしょう.

実は,本書で私のブログ記事を紹介していただきました.
こちらの記事です.
笑ってはいけない「いじめ防止対策推進法」
そこからちょっと抜粋しますね.
「いじめ防止対策推進法」では,
児童等は,いじめを行ってはならないとし,いじめが発生しないよう “防止” するための法律にしています.法律の名前からしてそうですから,これは間違いありません.
私はここに「いじめ防止対策推進法」という法律の真の恐怖が隠れていると睨んでいます.
それは何かというと,子供のいじめを法律で,そして,大人(もっと言うと“教師”)が防止(コントロール)できると考えていることです.
いじめを無くせば,子供が善く育つと考えていることです.
「いじめは良くない」「いじめを無くそう」
とても良いことです.異論はありません.
別に私は天邪鬼になって記事を書いているわけではないのです.
「いじめ」はどのような社会でも発生するものです.「防止」できるものでも,解決できるものでもありません.いじめが発生しない社会というのも気持ち悪いでしょ.
けれども,この「いじめ」を放置すると,その社会や共同体が健全に機能しなくなってしまう.それでは問題だから,どのようにすれば良いのだろうか,と考えることが大切です.
もっと言うと,「いじめ」がなくなってしまうと健全な学校教育ができなくなってしまう.それくらいの懐の深さで見守ってもらいたいところです.
和田先生は,こうした “いじめ” が持っている特性について,「あとがき」でコレステロールに例えていらっしゃいます.
とても適切な比喩です.

コレステロールは,増え過ぎると健康を害するようになりますが,これが少なすぎても生命活動に害を成します.
さらに,コレステロールと一口に言っても,LDLとHDLの2種類あるように,単純に示せるものではありません.
いじめもこれと一緒で,いじめがあるからこそ人間だし,いじめを乗り越えるところに人間らしさがあると言えます.

あと,本書で取り上げている重大なことのひとつが,いじめ問題や子供の自殺についての報道姿勢についての提言です.
結論から言えば,WHOが勧告している「自殺報道ガイドライン」を,日本のマスコミは守っていないのではないか? ということ.

例えば,WHOが勧告しているものには,
・写真や遺書を公表しない
・自殺の理由を単純化して報道しない
・センセーショナルに報道しない
等々のガイドラインがあるのですが,いじめ問題や子供の自殺についての報道では,明らかにこれが無視されているとしか思えません.
これについても,本書では学校教育現場の視点から多角的に論じられています.

繰り返しますが,何も難しい議論をしているわけではないのです.
いじめ問題や子供の自殺というのは,簡単で単純ではないということ.

簡単で単純な捉え方で取り組まれると,一番困るのは当の子供たちであり,それを支援する教育現場であることを知って頂きたいのです.


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