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体育学的映画論「関ヶ原」

どうしても映画館で見ておきたかったので,先週末の台風が近づく雨の中見てきました.
別に動画配信になってからでも良かったような気もするのですが,やっぱり日本を代表する合戦「関ヶ原の戦い」はスクリーンで見ておくべきだと思ったのです.

結果,残念な思いをしたところです.

そうは言いましても,昨年一番の残念な思いをした映画,
でも述べたように,監督や役者さん,スタッフの皆さんがせっかく作ってくれた映画ですから,こき下ろすような批評はしたくありません.

どうしてこんな出来になってしまったのか?
どうして(少なくとも私の)心に響かない作品なのか?
といった点をしっかり考察することによって,(少なくとも私の)今後の映画鑑賞の足しになればと思います.

以下,この記事を読んだ皆様の参考になれば幸いです.
以降より映画のネタバレを含みますが,史実に基づく関ヶ原の戦いがテーマなので,ネタはももともとバレてるだろうとも言えます.


今回の「関ヶ原」は,ここ最近の(って言い出して久しいのだろうけど)日本映画にありがちな,「どうしてこうなった?」が満載の映画です.
むしろ,その点を考察することで日本映画の質の向上,そして、今後の展望が見えてくるとも言えます.

まず,とにかく中途半端ですよね.
この一言に尽きると言っても過言ではない.
徹底して中途半端な作品です.
中途半端であることにかけては他の追随を許さない.そんなところを目指した作品だと言われてもおかしくありません.

本作はテーマがてんこ盛りです.
・原作・司馬遼太郎による解説と語りを基にした展開
・関ヶ原に至るまでの経緯を猛スピードで追うスタイル
・石田三成と女忍者との恋愛模様
・各武将の生き様の紹介
・エキストラを大量動員した壮大な合戦
・よく分からない素性の登場人物(朝鮮人兵士とか医療班とか)
史実と違うとか,余計な色恋沙汰を入れるなとか,そんな批判もありますが,私としてはどれもそれらはそれらで魅力的だと思いました.
でも,いかんせん全てが中途半端だった.

私的には,どうせなら石田三成と女忍者の恋愛模様にフォーカスを当てた方が良かったのではないかと思います.それこそ,莫大な予算がかかったであろう合戦シーンなんかは,適当なCGやNHK大河ドラマ並みの濃霧(煙)で誤魔化してしまえばいい.むしろカットでいい.

実際,女忍者役の有村架純さんは気合いの入った演技をしていました.ヘラヘラしておらず,かなり自然にくノ一を演じられていたと思います.アクションシーンも迫力があって及第点です.もっと彼女に焦点を当てれば良かったのに.

ただ,前言を撤回するようですが,戦国武将とくノ一の色恋もいいんですけど,やっぱり「関ヶ原の戦い」の映画でそれはないよね.
結局,どんな映画にしたいのか決めきれずに作り出したのが原因ではないかと邪推しています.だから中途半端になってしまった.

どうして古今東西の映画監督って,この手の戦争スペクタクル映画に辻褄の合わないショボい色恋沙汰を入れたがるんでしょうね.
もしかすると,「人気俳優・女優のからみを入れておけば,OLとか主婦層を取り込めるのではないか」などというプロデューサーやらスポンサーからの圧力があるのでしょうか.
そんなもの見せられても全然つまらないし,映画の質は絶対に下ります.それで成功した映画がない以上,もうそろそろ気づけよと思うんですけど.
たぶん,「マーケティング」とか「アンケート調査」の弊害です.不安なんでしょうね.
昨今の大学経営と似たような感じですな.

大きなテーマを扱う手前,あれもこれもと思いつき,「全部のせ」の「ごった煮」になってしまう.
我々の業界で言えば,抽象的なテーマで依頼された研究発表や,ピンポイントの授業とかオープンキャンパス用のスライドとかでよくある失敗です.
今作の「関ヶ原」では,それと同じものを見せられた気がします.

実際,ウィキペディアにはそれを匂わす経緯が紹介されているんです.
関ヶ原(映画)(wikipedia)
監督の原田眞人は1991年から映画化の構想を抱いており、当初は島左近を主役に考え、1998年には主役を小早川秀秋に変更していた。2003年に『ラストサムライ』に出演した際に目にした合戦シーンに触発されて「日本発の世界戦略時代劇」を作りたいと考えるようになり、主役を島津義弘に変更したが、最終的には小説と同じ石田三成を主役にすることになった。
言われてみれば,映画の構成がたしかに『ラストサムライ』っぽい.
けど,「日本発の世界戦略時代劇」というのであれば尚の事,島津義弘を主役にして,関ヶ原の合戦における壮絶な「リアル・スリーハンドレッド」を撮れば,関ヶ原マニアにはたまらない作品になったのに.
それこそ世界に向けて,「300人が撤退するために数万の敵本隊に向かって突進」という謎の作戦や,薩人マシーンによる『敵将のみロックオン戦法(捨て奸)』を見せてあげれば,
「Oh! カミカゼ・アタックの起源はココにあったのデスネ!」
って話題になること間違いない.
ハリウッドの「ラストサムライ」のサムライ達は敵中突破できませんでしたが,例の一族ならやってのけます.事実なんだから仕方ない.
朝鮮人兵士による自爆テロを見せられても,日本発の世界戦略時代劇にはならないと思うよ.

せっかく「関ヶ原の戦い」という極上サーロイン肉があるんです.
小洒落た創作料理なんかにせず,普通にステーキで食べさせてくれればそれでいい.それが私の希望です.
具体的には,2017年現在において最も史実に近しいと考えられる関ヶ原の戦いの戦況推移を描いてくれた方が嬉しかった.

つまり,「この映画を見れば日本のサムライの戦い方が全てわかる!」という映像資料も兼ねた映画です.
その方が,ことあるごとに世界中の教育機関で中世日本の「サムライの戦い」の映像資料として使ってもらえるので価値が出るんじゃないかと思うんですよ.
例えば,大学の「中世日本の歴史」なんかの講義があったとして,そこで学生に見せる教材としても便利でしょう.
興行的には歴史マニア以外は鑑賞しないでしょうから収入の面では厳しいでしょうけど,それ以上の意義があると考えられます.

現在,時代考証が考慮された中世日本における質の高い合戦シーンを撮った映画って無いですよね.
これってお金はかかるけど日本映画界の「仕事」としては重要だと思うんですよ.ハリウッドとか外国じゃやってくれないから.
どうやら日本の合戦シーンを撮る技術も失われてきているらしいので,その技術の維持と発展のためにも大切ではないかと思います.