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一方の,日本の左翼と学校教育について

昨日は右翼(ウヨク)についてでした.
日本の右翼が教育問題について軽薄である歴史的な理由
なので,今日はバランスをとって左翼(サヨク)についてです.

日本の戦後教育は左翼に牛耳られている,という表現をよく聞きます.たしかにそういう側面があるのは事実でしょう.
一時期一大勢力を誇った「日教組(日本教職員組合)」も,左翼的な組織でした.

日本の教育問題に左翼が深くコミットできるのには理由があります.
それは,戦前教育への反動とか,GHQの陰謀とか,社会主義勢力の台頭とか.たしかにそれらも影響しているでしょうが,それだけではないと思います.

近代における学校教育とは,“現代日本” において「左翼的思想」と受け取られがちな考え方から誕生しているからです.

前回記事■日本の右翼が教育問題について軽薄である歴史的な理由や,■「学校」が誕生した理由の記事でもご紹介したように,近代において「学校」が誕生した理由は,
「大人社会のルール,大人の論理から子供を守るため」
という,ちょっと左翼じみた考え方によります.

近代化と富国強兵に邁進する日本のなかにあって,その犠牲となったのが子供でした.
その他先進国と同様,近代化の最中にあっては,搾取されるのは安い賃金で働ける弱い立場の労働者.その代表が子供だったのです.

ですから,先進国においては工業化に伴う子供の搾取を是正するため,一定期間子供を働かせないようにする労働法を整備しました.
そうして働かなくてもよくなった子供を預かり教育するため,学校が誕生したわけです.
大人社会とは,放っといたら子供ですら搾取をはじめる.だから予め子供を社会から隔離・保護しておこうという仕組みが学校なんです.

しかし,日本の事情は他国と少し異なります.
世界に遅れて近代化を始めた日本は,既に先進国で機能しているシステムを同時多発的に導入できました.

これはちょうど,それまで「電話」すら配備されていなかった国に,いきなり「スマホ」が入るようなものです.
電気通信とは何か? ネットワークとは何か? 情報スキルやメディアリテラシーなどといったものが全く準備されていない人々は,それらの歴史的経緯・経験を経た人々とは異なる態度で通信端末を手にするはずです.
これが,日本における「工業化」と「学校」にも同じことが言えます.

日本は近代化するために「工業化&学校」を導入しました.
日本において学校教育とは,近代化へ向けた活動の一部だったのです.

かくして日本では,
「近代化を成し遂げるための国民教育のために学校がある」
という認識に至ります.
日本のウヨクが学校教育に「国に貢献できる能力」とか「愛国心」を入れたがるのは,このためです.
ですが,何度も言いますが,この認識は「学校」の本来の存在意義や機能からは外れています.それ故,いろいろなところで破綻が生じます.

実際,日本では学校教育制度(1872年)のあとに労働法(1911年)が出来ています.普通は労働法を先に整備するが筋です.子供を働かせないようにしておいて,そこから学校に通わせるのが道理ってものでしょう.
しかし,学校には「行ける者が行く」というスタイルが日本流.あくまで学校は「子供が行く」ところという認識なんです.でも本来は「行かせる」ところです.

「義務教育」という言葉を,日本人の少なくない人が「子供が義務として行くところ」と勘違いしているのが,それを如実に表しています.

こうした現状について,学校の本来の存在意義を問い直したのが戦後左翼だったのではないかと思います.だから彼らは「ゆとり教育」を推進したり,脱受験戦争を掲げたりする.学校本来の在り方からすれば,これらはたしかに正論ではありますので.
ですが,こうしたことは本来,「保守派」が取り組まなければならないことのはずでした.本質的に,左翼では務まらないんです.「学校本来の存在意義を問い直す」なんて保守的なこと,左翼にはできません.だからジェンダーフリーとか国旗国歌とかで難儀を起こす.

そもそも,近代において「学校」を誕生させたのは欧米における保守派でした.
産業革命により激動する社会変革の中で,その荒波を出来る限り抑えようと努め,労働法を作り,学校を作って子供を守ったのが保守派だった.

ところが日本では事情が逆で,そうした「社会から隔離して子供を守る」という発想は左翼的だと捉えられます.その一方で,保守派と呼ばれる人こそが,学校教育において社会に出て役立つ知識だとかビジネススキルを盛り込もうとする.
子供を優れた労働者として育て上げるため,社会的要望や政府の都合を入れるなんて,これは明らかに左翼的発想です.

この国の右翼は左翼である.
その問題の源流を辿っていくと,どうやら我が国の近代化における「学校」の始まり方にその源泉があるように思えてきます.


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