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豊洲移転問題みたいな問題を考える

先日,自転車がパンクしたので近所の自転車屋に修理に出したんです.
「チューブだけじゃなくタイヤも替えなきゃいけないので,3,500円くらいですかね」
という見積りをしてもらい,自転車を預けてしばらく時間潰し.

予定していた時間に取りに行くと,
「チェーンが弛んでいたので調整しました.硬めのオイルを付けているので最初は動きがぎこちないかもしれません.あと,ブレーキパッドがズレていて,ワイヤーも緩んでいたので,これも調整しています.キーロックの動きが不安定になっていたので錆取りをしてオイルを入れています」
ということで,本来ならこれ全部注文するだけでも3,500円以上するメンテナンスなのに,
「こちらで勝手にやったことなので,料金はいいですよ」
とのこと.
自転車への愛情が感じられる仕事です.
こういう仕事人にはお金を出さねばなりません.4,000円払ってお釣りは受け取らないことにしました(って,なんとケチくさい自慢でしょう).

さて,このような自転車屋に,
「なんで勝手にチェーンを調整したんだ.ブレーキパッドは本当に直っているのか」
と文句言って,
「明らかに約束と違う.なんなら金は払わないぞ.責任を取れ」
とクレームをつけるのが東京人です.

豊洲移転問題みたいですね.

朝日新聞社のウェブサイトに,豊洲移転問題の推移をまとめたものがありました.
築地市場の豊洲移転問題(朝日新聞)
これまでの一連の流れを確認することができます.

で,結局のところ最大の争点は何かというと,
「盛り土で建設する予定だったのに,いつの間にか地下ピットとして計画され建設されている」
ということ,つまり当初の計画と実際の建設状況が異なるということです.
たしかに小池都知事が指摘するように,「都の職員に手続き違反と説明不足があった」ことは事実.それにより結構な人数の職員が責任をとらされて減給処分になっているようです.

いやいや,それより「土壌汚染」と「安全性」が最大の問題なんだよ!
と言い出す人もいますが,この点について「本気」で争点化されることはありません.
なぜかと言うと,そもそも現時点で築地市場よりも豊洲市場予定地の方が清潔であり,安全性が高い可能性があるからです.築地市場は元・毒ガス兵器工場跡地ですし,地下には第5福竜丸で汚染された被爆マグロが埋められていますよね.

基準値がどうのこうのと言っていますが,これを本気で争点化したいのであれば,築地やその他東京の食品関係を扱っている清潔なところで同じように測定し,比較してみればいいことです.
でも,これを実施することはありません.測定してみて豊洲よりも悪い値が出たら,様々な人々の気分が悪くなるからです.やるせない雰囲気に満ち満ちてしまう.問題が複雑化します.
どんな場所であろうと,何回も測ってりゃそのうち悪い値が出るものです.健康診断の血液検査と同じようなものですよ.どんなに健康な人であっても,何回か測れば病的な数値が出ます.それが「自然」です.
だから小池都知事としても,「都職員の手続き違反」に焦点を絞って攻めるしかないのです.そこでしか勝負できないんだから.

しかし,この問題を前にした「東京人」が反省しなければいけないのは,豊洲市場をより良いものにしようと努力,配慮したかもしれない都職員を,「手続き違反」だとか「説明が足りていない」という理由を作って,白昼堂々と責任を取らせたことにあります.
おまけに,引っ掻き回し過ぎて結局移転が延期になっている.
バカですね.

以下,豊洲移転問題に触発されて考えたことを述べます.
断っておきますが,豊洲移転問題そのものとは一切関係がありません.それを念頭にお読みください.
公的機関で仕事をしてる人であれば,豊洲移転問題をみて「あぁ,きっとこういうことじゃないのかなぁ・・・」って思ったであろうことをお話します.
これはちょうど,■「教職員用」危ない大学とはこういうところだみたいな話です.

通常,豊洲移転問題で見られたような職員の手続き違反には理由があります.彼らにしても,いい加減に仕事をしているわけではありません.
そして,こういう「手続き違反」は,トップ(この場合,都知事)の判断でもってウヤムヤにされます.
こんなこと言うと,一般の方々は「公務員がそんなことして良いのか!」と不満そうにするでしょうが,そういう話ではありません.

例えば,何かのプロジェクトを議論していく中にあって,プロジェクト・メンバー間で何かしらの齟齬やコミュニケーション不足,勘違いなどが発生する場合があります.
その結果,その道の専門家であれば常識であるものが,重要な採決をとる会議でデタラメな計画として決定されることがあります.

これに対し,一応専門的知識を有する担当職員は「これじゃマズい」と考え,あの手この手で適切な計画へと会議や手続きを誘導しようとすることがあります.
これが最近よく槍玉に挙げられる「官僚(職員)が勝手に政策(プロジェクト)を計画してしまう.けしからん!」というやつですね.

でも,官僚や職員が能動的に手を加えるのにも理由があります.
どうして彼らはそんな事をするのかというと,往々にしてこの手の委員会や会議では「重鎮」だとか「面倒くさい人」なんかが適当なこと言って引っ掻き回して,碌な提案や決定をしないことがあるのです.政治的パワーをもって会議メンバーとして発言してるけど,なにもかもが素人発想.
だけど,こうした人達の機嫌を損ねないように,そして,この人達が主体的に物事を計画しているように仕立てることが彼ら官僚・職員の大事な任務になってきます.

例えば,耐震・土壌汚染対策としては地下ピット構造にするのが常識なのに,集まったメンバーは何を思ったか,土を盛ろうとすることがあります.そしてそれが「決定」となる.
そんな時は,後付で担当職員が可能な限りの範囲で適切なものに変更(捏造)することがあるのです.

これが有能な官僚であり,職員なのです.いやマジでホントに.

大学でも似たようなことはあります.
ひとまず会議をやったことにして,一応の決定はするんだけど,でもそれって明らかに間違ってるよねって場合は,後日,担当職員が議長や委員長のところに行って,「この部分ですが,規定に反しますから」とか「より経済的なのはこちらのプランです」などと言って変更を具申することがあるのです.

会議に出席している大学教員にしたって,その会議に出たくて出ているわけでも,その委員会に参加したくて参加してるわけでもありません.
委員会として形にするため,頭数を揃えるために出席している人がほとんどで,資料や提案書を碌に見ることはありません.
だから適当に賛成の手を上げたり,無難な発言をすることによって,あたかも丁寧に審議が進んでいるかのような状況を演出します.
民間の方々にすれば「バカバカしい」と思うかもしれませんが,それが公的機関の審議の進め方です.
有能な事務職員さんはそんなこと百も承知ですから,これを踏まえた上で物事が適切に進むように仕立てるのです.

明らかに「決定」の変更が必要だと考えられる場合は,例えばメンバーへの資料回覧とかメール会議といった方法で決定変更の手続きをとるのが普通なのですが,時間的に間に合わないと言う場合は,議長や委員長の判断でウヤムヤにするという場合があります.
だって,どうせ皆「OK」って言うんだから.
私も以前,大学で職員をやっていましたので,似たような境遇を何度も経験しています.
責任者である教授と打ち合わせて,「ま,いいよね」ってことで黙って改変する部分はあるものです.

でも,もちろんこれは違反です.
どこかでバレて指摘されたら,ぐうの音も出ません.
けど,それを指摘する人なんていません.普通は.
なぜって,たとえ違反手続きで変更されたプランであっても,そっちの方が正しく適切であれば,皆「あぁ,そういうことね」ってことで流すものだからです.


えーっと,もともと何の話でしたっけ.
そうそう,自転車の修理の話でした.

つまり,その道の専門家が気を利かせてくれたものにイチャモンつけるのは野暮ってものです.
むしろ,それに見合った対価を与えるのが筋ってものでしょう.

あんまりイチャモンつけたり罰則を与えたりすると,そのうち「ホントはこっちの方がいいのにな」って気づいてくれていても,適切な方向に誘導してくれなくなりますよ.


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