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東京ラーメン再考

既に何度か同じテーマで話してきていることですが,最近また同じ気分にさせられたので “一地方民” として述べておこうと思います.
「しつこい」「面白くない」と言われようとも,これは誰かがちゃんと言わなきゃいけないことだからです.

類似過去記事はこちら.
続・東京人と中国人はよく似ている
都知事選と抹茶ビールの間にあるもの

ここ東京はラーメン激戦地なんだそうです.たしかに流行りのラーメン店が群雄割拠な状態にあります.
でも,このことを東京人には教えてあげなければいけません.

「東京人が『旨い』と言っているラーメンは,概ね不味い」

なぜ教えてあげなければならないのか?
それは,東京のラーメンが全国津々浦々の中でも,とりわけ「レベルが高い」と勘違いさせることになるからです.
東京のラーメンは格別美味しくありません.むしろ味付けのレベルは低い方だと思います.

たかがラーメン,たかが一つの勘違いだと見做してはいけない.この勘違いを放っておくと碌なことになりません.
それが発展していくと,抹茶ビールを飲んだり,碌でもない都知事を選ぶようになる.最近は魚市場の移転でしょうもないことをやっています.

さて,去年から自宅の近くに新しくラーメン屋ができていました.
開店当初に食べてみたのですが,ことのほか不味いので行くのをやめたのです.
ところがこの店,最近になって行列ができるようになった.店の前のベンチにずらりと人が並ぶんです.

何があったんだと思い,空いている時に食べに行ってみたのです.
どうやらメニューが変わって,「濃厚な魚介スープがオススメ」ということになっていました.
どれどれ,あのラーメンがどれほど美味しくなったのかと期待して注文したのですが,やっぱり不味かった.これならラ王を食べていた方が「コスパ」からすれば納得できる.

一方,これも自宅の近くにあるラーメン屋ですが,いつもそれほど客が入っていないけど美味しいんです.この店は閉店が早いので,私の生活時間に合わないため頻繁には行けないのですが,お気に入りのラーメンを出してくれます.
客が入っていないから,そのうち店を閉めるんじゃないかと心配でなりません.
そう言えば,大将も気弱で今にも倒れそうです.この仕事に向いていないのかもしれませんね.

結論から言いましょう.
東京で流行っているラーメンは,マジョリティである「東京人の舌」に合うラーメンなのです.それが流行っているだけです.
これが地方民からすれば不味い.
当然と言えば当然のことですが,この理屈が意外と通りません.

日本は想像以上に広大です.各地域によって食文化が異なります.
地方人が,「東京に行ったら,美味しいラーメンを食べるんだ.きっと,こんな田舎のラーメンなんかより遥かに美味しいはずなんだ」などと雑誌片手に期待して食べてみたら,思いのほか不味かったというケースは多いはずです.

大丈夫.それは間違っていません.
東京人に合わせた味が,地方人に美味しいわけがない.地方人には地方人の舌に合わせた地元のラーメンが美味しいのです.
これはちょうど,海外に出店している日本料理屋で,外国人向けの味付けにしている日本料理が,日本人にとって「?」な味になるのと一緒です.

ところで,上述した不味いラーメン屋ですけど,どうやら東京では最近「魚介スープ」のラーメンが流行っているんだそうですね.どおりで最近はインスタントラーメンにもそんなのを良く見る.
ラーメン博物館のHPによると,2002年あたりから首都圏でブームになったそうです.
日本のラーメンの歴史(ラーメン博物館)

この魚介スープなんですけど,それこそ首都圏で何店か食べて回ったのですが,「無理やり感」が凄い.
「ほれ,魚介フレーバーを強くしてやったぞ.新鮮な味だろ?」というリニューアル・アピールだけで乗り切ろうとする根性が透けて見えるのが頭にくる.

ちなみに,私の実家がある高知では魚介スープのラーメンは昔からポピュラーです.
以前,料理好きで栄養士でもある母から聞いたのですが,高知みたいな田舎では「イリコダシ(煮干し)」と中華スープを合わせるのが普通で,ある意味この地域の特徴だということでした.
幼い頃に中国大陸と朝鮮半島で育った母としては(祖父が海軍下士官だった影響です),イリコダシで作るラーメンスープが気に入らないとのこと.
でも,私はイリコダシのラーメンで育ったので,この味が「懐かしいラーメン」ということになります.

そんなイリコダシ文化・四国出身の私としては,どうもこの「魚介系ラーメン」に漂う取って付けたような仕上がりが不気味です.
スープとなった魚介達が泣いているように感じます.
そう言えば,不気味と不味いって,字が似ていますね.

ところで,大阪・関西人は飲食店について「良い店」「悪い店」を接客能力で判断すると言われます.
これに対し,東京人のそれは「美味しい店」か「不味い店」かで判断すると言われます.

関西に住む以前は,私もお店は「美味しい店」か「不味い店」かで良し悪しを判断するものだろうと思っていました.
ところが,いざ関西に住んでみると,どうも「接客」の方が重要なファクターになるなということに気づいたのです.

これも結論から先に言いましょう.
東京では,「美味しい店」に当たるのが貴重なのです.なんせ人口が多いし店数が多いですからね.ちょっとくらい不味くても客が入るので,採算がとれるんです.
だから必然的に「美味しい店」が少ないので,客側としては店選びの判断材料は料理の「美味しい」「不味い」が重要なものになります.

それに対し関西(に限らず,地方)では,出店するからには料理が美味しいことは当たり前で,それ以上の価値がないと継続してやっていけません.
ですから,客側としては店の料理の味は判断材料にはならず,何度も足を運べるかどうか? が基準になるのだと思います.

例えば,私が関西にいた時に通っていたラーメン屋は,何度か足を運んでいるうちに私を覚えてくれて,入店した時点で注文が予測されて動いていました.
「いらっしゃいませ.ご注文は?」と聞かれ,
「じゃあ,これ」とメニューを指差すと,
「ありがとうございます.中・固(チュウカタ:中麺,茹で加減は固め)でよろしいですね」と返してくれるので,私はそれに頷けばOKという感じ.
この時点でもう既に厨房では中・固が茹でられているので,あっという間に出てきます.ちなみに,茹でているのは当時赴任していた大学の学生でした.

私が麺を食べ終わると,店員がすかさず寄ってきて,
「失礼します.替え玉は,細・固(ホソカタ:細麺,茹で加減は固め)でよろしいでしょうか」と聞くので,これも頷けばOKです.
ここでも既に教え子である学生が細・固を茹で始めているので,超速で替え玉が来ます.
こちらとしても,この注文パターンを変えるつもりはなく,来る料理を間違えたとしても不味いわけじゃないから気にしません.
バイトをしている学生に聞いてみたら,やっぱり馴染みの客にはこんな感じで対応しているのだそうです.

東京ラーメンについて,大事なことを言い忘れていました.
東京のラーメンが全国の中でも「レベルが高い」と勘違いさせてはいけない,という点です.
むしろ,君たちが食べているラーメンは不味いんだ,という冷水をかけてあげなければならない.それはどうしてか.

東京人は,斬新な味付けになら何でも「旨い」と言ってみせるからです.
たとえそれが不味くても「旨い」と言う.非常に変わった人たちです.
素直に不味いと言えばいいのに.
いえ,そうではない.東京人は,「旨い = 変な味」「変な味 ≠ 不味い」「不味い ≒ ありきたり」という関係式をつくっているように見えます.

こういう東京人の気質が,抹茶ビールを作ったり,舛添要一を辞めさせたかと思えば小池百合子みたいなのを都知事に選んだりするのです.
「変な味 ≠ 不味い」なのだから,山本太郎とか蓮舫も当選させる.地方の田舎では「変な味 = 不味い」のはずですけど,ここじゃそうはならない.
最近は魚市場の移転で無意味にもめています.どうでもいいよこんなの.

本当に美味しいものを,きちんと選ぶ.
これはラーメンを始めとする飲食店だけでなく,政治経済に対する姿勢と通底しているところがあります.


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