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続々・大学の売り

これまで,
大学の売り
続・大学の売り
というタイトルで書いてきましたが,結局,「大学の売りとは何か」を書かずじまいです.
タイトルをつけて書き始めてみたものの,つまりは「大学の売りなんてない」ということに落ち着いてしまうからです.

それでも大学教職員のなかには,「本学の売りとはなんだろうか? 強みはなんだろうか?」と考えている人たちがいます.
たいていの場合,彼らは嫌々やっています.
でも,中には本気で・・,なんだったら楽しんで考えている人がいます.

「本学の顧客ニーズをマーケティングするのだ」とか言っちゃって,気分はすっかりマーケターです.負ぁけたーじゃないですよ,ノリノリで勝ちにいってます.
どこの大学にも,そんな教員がいます.「危ない大学」ほどたくさんいます.
詳細は■こんな大学の教員は危ない part 1をどうぞ.
大学が危なくなってくると,「大学のマーケター」が跋扈をはじめるんです.
最近人気の資格・免許とか,偏差値45〜50の大学卒業生の平均的就職先とか,昨年の入学者のトレンドとか.そんなのを分析するのが好きな人です.

こういう人は,普通の大学だったら「痛い奴」で済まされます.
ところが,危ない大学では厭世的な空気が大学全体に漂っているので,こういう奴の頭をハリセンでペシッって叩く人がいないんです.ピコピコハンマーでも構いません.つまりは「お前,ばっかじゃねーの」っていう態度をあからさまに,且つ,静かにとる人がいなくなるのです.

元来,大学のマーケターは小者で小心者です.
自分の大学教員としての実力にコンプレックスを持っていますし,実際ホントに無能だったりする.
大学教育の理念もないし,使命感や責任感も持ち合わせていません.
そんな連中が,そんな連中こそが「大学のマーケター」になろうとします.
その一方で,普通の大学には「大学教育とはかくあるべし」とマフィアのボスみたいな態度で睨みをきかせる先生がいますので,小心者である大学のマーケターが蔓延ることはありません.

しかし,危ない大学では大学のマーケターを小馬鹿にする人がいないもんですから,ただでさえお調子者なこの連中は,こういうところにしか取り柄を見出だせないという開放感もあってか,通常の3倍元気に活動しています.
我が世の春がきたぁ~!!って感じです.

なんかの会議とかで,なんだかよく分からないモバイルアプリを使って不思議なリサーチ結果を発表してきます.
それって4〜5年前に新聞の片隅とか卑猥な週刊誌に書かれてたことだろ,っていう大学経営論をオシャレに話し出すんです.
こっちが大人しくしてると「授業1回あたりの授業料を学生が実感できるようなシステムを作ってはどうか」などとアクロバティックな暴言を吐き始める.
少なくない人々はウンザリしていますが,万策尽きて疲労困憊の大学経営陣の目には「現状打開に熱心な教員」と映ります.そんで重宝がられるっていう寸法です.

私の知り合いの先生なんかは,会議とかでこういう教員が目を輝かせて「これからの大学は・・」などとしゃべっていると,殺意を覚えると言います.
お気持ち,良く分かります.

でも,彼らにしたって悪意があってやっているわけではありません.
彼らなりの自己アピールでしょうし,大学を考えてのことなのです.

ですが,大学にかぎらず「教育」は商品売買のようにはいきません.
「私はお金を払っているから,それに見合ったものを出せ」という態度の人間に,教育ができるわけないじゃないですか.
この理屈は,「支払っているお金に見合ったもの」が一体どういうモノなのか? という評価を,現時刻をもって判断できるという前提で初めて成立します.
しかし,教育というのは「そういう価値判断の是正」も含めて行われているものです.
「これは私が欲しいものじゃない」などという注文は,そうそう簡単に受け入れてはいけないし,言い出すこと自体が間違いです.

これは,「学生は教員の言うことを黙って聞いておけ」ということを意味しません.
バカな奴ほどそんな受け取り方をします.
こういう人はもはや手遅れか,もしくはまだ大学教育を受けられるほど成熟していないのです.
「これは私の欲しいものじゃない」という着想に至ることが間違いだということです.
そういう疑問が湧いてきたならば,では「なぜこの先生はそう考えるのだろうか」と問うことが学生のすべきことです.そのように教員に問える機会と時間を,お金を払って得ているのが学生なのですから.


結局お前,ずっと文句ばっか言って何がやりたいのさ? って?
いつの世も,大学教育はその重要性が説かれる一方で,その見えにくい「効果」を訝しむ勢力に潰されてきました.
でも,それになんとか抵抗するのが我々の仕事だとも思うのです.
大学教育のこと,ちゃんと考えましょうよってことです.


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※ちなみに,「鳥無き島の蝙蝠たちシリーズ」は,形を変えた私の教育論です.そういう目で見てもらえると違った読み方ができると思います.