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現実を考慮した規制(法)なら効果的

熊本を中心に大きな地震が発生しました.
犠牲者は現時点で34名と出ています.

その上で,まだネット配信記事では「不謹慎」だと思われているだろうし,「被害報告の途中」だということもありましょうから多くのメディアではこの話には触れられていませんが,最大震度7の地震が,そして震度6強が政令指定都市である熊本市を襲ったにしては,やっぱりこの被害は小さいと言えるでしょう.
ただ,大きな余震が続いているようですので,予断は許されませんが.

1995年の阪神淡路大震災を知っている者としては,震度7が都市部を襲ったというこのニュースを聞いた時点で,1000人以上の被害が出るかもしれないと思わされました.
倒壊した家屋とその火災がたくさん映しだされていた阪神淡路大震災からすると,今回は家屋の倒壊や火災は少ないようです.
その時の死因のほとんどが圧死だったということで,家具の転倒を防ぐ震災グッズが注目されていましたし,阪神淡路大震災以降に叫ばれた,建築物の耐震化の啓蒙と法規制が功を奏したのではないかと考えられます.
具体的な法律は↓
建築物の耐震改修の促進に関する法律(平成七年十月二十七日法律第百二十三号)

日本は地球の中でも地震が多い地域です.そんな地域にある国としては,甚大な被害が出る可能性がある部分をしっかりと規制する.
耐震化に関する法律は,その後発生した地震でも少なくない命を救っているはずです.

これまでに取り上げてきた「自転車運転取り締まり強化」にしても,そういう話を「逆の観点」から指摘したつもりですが,この点,規制強化によって功を奏した事例は何かあるのかと言われれば,その代表的なものが「飲酒運転の取り締まり強化」でしょう.

当時,非常に話題となった飲酒運転の取り締まり強化.平成15年(2003年)と平成19年(2007年)に厳罰化されたわけですが,それによって下図のように飲酒運転による事故は激減しています.
昨年(2015年)の死亡事故件数は201件でしたので,取り締まり強化前の平成12年:1191件と比べると,なんとその17%にまで減少していることになります.
内閣府『交通安全白書』(2009)より
ところが当時は,取り締まり強化の影で少なくない人々から,
「飲み会の帰りが大変」
「タクシー業界の利権じゃないのか?」
「ちょっと飲んだぐらいでは事故なんてしない.やり過ぎじゃないか」
などという不満が聞こえたものです.

飲酒運転の取り締まり強化をすることで困る人がいるか考えてみましても,まぁ,いませんよね.明らかに飲酒運転はドライバーの利益しか産んでいないし,それによって被る不利益が広く大きすぎる.
そのようなわけで,これは現実を考慮した規制なら明確に効果が現れてくることを示す典型例でしょう.

そう言えば,当時学生だった私がアルバイトをしていた焼肉屋の大将は,この飲酒運転の取り締まり強化を苦々しく思っておりました.どうすれば飲酒運転の検問をくぐり抜けられるか,我々バイト学生に仕事終わりに賄い料理を食べさせながら,その対処方法をいろいろ語ってくれたものです.
曰く,その最良の手段は,「検問で止められたらその場で焼酎を飲んだらええんや」とのこと.そうすれば「今ここで酒を飲んだことにできるやろ.せやから常にダッシュボードにワンカップ大関を準備しといたらえぇねん」というわけです.
もちろん私としては「ワンカップ大関は焼酎ではありませんよ」なんて野暮なことは言いませんし,それで検問をくぐり抜けることにはならない上に余計に罪が重くなるだけじゃないかと思いましたが,だいたい飲酒運転を意図的にしようとする人間はダメな奴が多い.きっと,酔えるならワンカップ大関と焼酎のどちらでもいいという奴です.だから酒を飲んでも運転しようとする.その焼肉屋の大将もそうでした.
だから当時の私は「勝手に死ねばいいのに」と思っていましたが,飲んでる自分だけ死ぬわけじゃないのが飲酒運転による事故です.

話を戻せば,地震が多い日本においては,やはり地震に対処する規制や法律が整備されるべきでしょう.
1995年の阪神淡路大震災の教訓を糧に建築物の耐震改修の促進に関する法律ができたわけですが,2011年の東日本大震災後もそうした法律ができました.それがこれ↓
強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法(平成二十五年十二月十一日法律第九十五号)

建築物の耐震化の次は,国土の耐震化というわけですね.
ただ,前者の法律が施工されてから「耐震化詐欺」などが横行したように,法律を作ったとしてもその裏で何かしらネガティブな影響があるものです.しかし,耐震化詐欺が発生するから耐震化しなくてもいいということにはなりません.
詐欺は詐欺でしょっぴけばいい.

飲酒運転の取り締まり強化という,一見なんの悪影響が無いと思えることをしても,「俺は飲んでも事故らないから,取り締まり強化は迷惑だ」などという焼肉屋の大将みたいな人がいるくらいですから.案の定,国土の耐震化に対しても焼肉屋の大将みたいな人はいるようです.
公共事業改革市民会会議(Q&Aここがおかしい国土強靭化)
ぜひこのリンク先のQ&Aを見てほしいのですが,どれもこれもQ(問い)の方がA(答え)よりも正論にしか読めません.わざとやってるんじゃないかと思えるくらい.
代表的なのがこんなやつ,
Q3.防災・減災対策としての公共事業は必要ではないですか?
A.インフラ整備だけでは防災・減災に対して効果は限定的です。同基本法案では防災・減災等に関する記述は抽象的な内容にとどまっており、どのように被害を想定し、対策に優先順位を設けるのか明確ではありません。このような「強靭化」では防災・減災に乗じたバラマキの一方で、真に必要な対策まで共倒れになりかねません。
これをAとQを逆にしてみましょう.そのまま反論になります.
Q.インフラ整備だけでは防災・減災に対して効果は限定的ではないですか?
A.限定的であっても防災・減災対策としての公共事業は必要です.同基本法案では防災・減災等に関する記述は抽象的な内容にしており、どのように被害を想定し、対策に優先順位を設けるのか各地域の事情は異なるため,研究調査の余地を残しています。「強靭化」は防災・減災に乗じたバラマキとなる可能性もありますが、真に必要な対策がとれないまま共倒れになってもいけません。
こういうふうに,「問い」が既に「答え」になっているものは,どこまで行っても議論は平行線になります.別にそれが悪いというわけではありません.考え方はいろいろあって良いと思いますから.
ただ,政治と公益に関することですから,どこかで一方の考え方を採用すべきところが出てきます.
上記であれば,
「インフラ整備は防災減災に限定的だ」と,「公共事業は防災減災に必要だ」
のいずれかということになります.
普通,後者です.限定的であっても必要なものはやる.それが国を与る者の責任です.

「交通事故を防ぐために,飲酒運転の取り締まり強化をしても効果は限定的だ」と言ってもいいですし,検問前で酒を飲みだすバカが現れるのも仕方ないですが,それでも普通は取り締まり強化をする.明らかに公益に資するからです.

公共事業という名が示している通り,公共のための事業ですから,どうにかして予算を工面しなければいけないものです.簡単に削っていいものではありません.
必要性のあるものは採用するのが常識というものです.
今回の熊本での地震も,なんらかの形で日本の公共事業の教訓としてもらいたいものです.

今後も救助と復旧が続くかと思います.作業にかかっている人々の無事と,より多くの方々の救命をお祈りします.


PS.
それだけに,気になっているのが私の実家がある町です.
まともに耐震化できているか疑問.
日本一の津波(34m)が押し寄せることで有名になったあの町です.
以前取り上げたことがあるので,こちらもどうぞ■全滅の町,黒潮町