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続・そう言えば,自転車取り締まり強化の影響はどうなった?

昨年の11月に,
そう言えば,自転車取り締まり強化の影響はどうなった?
という記事を書いていました.

昨年の6月1日から始まった,自転車運転の取り締まり強化の影響を11月時点の統計データから読み解こうとしたものです.
この「自転車取り締まり強化」を覚えておいででしょうか?
コチラを参照→警察庁:自転車運転者講習制度(PDF)

最近,自転車事故が増加している(実際のところは増加していないが),危険な運転をする輩が多い,などといったマスコミ世論の影響もあったのかもしれませんが,自転車運転のルール徹底の機会となった動きだったと記憶しています.

しかし,これについて私のブログでは,
「道路整備をせずにルールだけ強化しても無意味だし,むしろ,自動車・バイク側の意識が変わっていない道路交通状況で本来の自転車のルールを徹底しようものなら,逆に重大な死亡事故が増えてしまうのではないか?」
という懸念を表明してきたわけです.

そして,上述した■そう言えば,自転車取り締まり強化の影響はどうなった?の記事は,6月以降(11月時点)に発表されている統計データを見ると,どうやらその傾向がありそうだ.というものでした.
その記事では,「平成27年の最終報告を見ないと分からない部分もある」ということにしていましたので,今回は先月3月3日に発表されていた警察庁の統計データを使って分析してみたいと思います.

まず大枠を捉えておきましょう.
下表は,交通事故における死亡者数の内訳です.
平成27年 交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況について 警察庁(2016)
過去11年間分:平成17年〜27年度のものです.
ご覧のように,近年は交通事故での死亡者数はいずれの状況下においても低下していました.
ところが,警察庁の報道用発表にもありましたが,残念なことに今年は自転車と歩行者の死亡者数が増加してしまったのです.
これが分かりやすいように,平成17年の死亡者数を1(100%)として,その割合としてグラフ化したものが下図です.
平成27年 交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況について 警察庁(2016)より作成
そうは言いましても,ずっと下がり続けてきたなかでの微増です.数字だけ見れば,つい先日とも言える2年前(平成25年)と変わらないのですから.
これをもって警察の取り組みの劣化や,歩行者や自転車のマナー・エチケットの悪化ということにはできないでしょう.
それだけに,このように数字が “ピョン” と跳ね上がる現象には,例年とは違う何かしら特異なものが隠れている可能性があるのです.
それが今年は「自転車ルールの徹底」にあるのではないかと勘ぐられるわけです.

※歩行者についての分析はまた別に譲るとして,今回は昨年から注目していた
「自転車運転に関するルール徹底の動き」の視点から考えてみたいと思います.

それが今年は「自転車ルールの・・・,というわけですから,他の年も気になるのかと言うところですけど,例えば平成25年も “ピョン” と数字が跳ね上がっていますね.

では2年前の平成25年の死亡事故に特徴的なものは何だったのかと言うと,
「自転車単独での事故(自爆)」
だったのです.
実はこの傾向は今年も同じところがありまして,以下をご覧ください.
自転車事故における事故類型(どんな事故だったのか)を示したのが下表です.
平成27年 交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況について 警察庁(2016)

見づらいかもしれませんが,青字で示した事故類型「車両単独」をご覧ください.
その他の事故類型は,経年による死亡事故の減少と随伴して動いているのに対し,車両単独事故は経年変化が少なく,平成25年と平成27年の事故増加の動きに随伴して増加しています.

この原因について信頼性の高い分析は難しいのですが,両年に共通しているものとしては,私が覚えている限り(私も過去記事でそれらに反応しているという意味でも),
「メディア等を通じて “正しい自転車運転” に対する啓蒙が頻発した時期」
ではないかと思います.
つまり,多くの自転車使用者が「ちゃんとルールに従った運転をしないといけないんだな」ということを気にした時期と重なるわけです.

ようするにここで言いたいのは,正しい自転車運転を心がけてしまうと,自爆が増えるということです.
なぜ自爆が増えるかというと,これは完全に私の憶測になってしまいますが,道路交通状況が自転車運転のために適切な環境でないのに “正しい運転” なるものをやろうとしてしまった結果,無理がたたって事故につながった,という可能性です.

ではもう少し分析を進めて,今年の自転車死亡事故増加に伴って特異的に増加した事故は何か? という点を考えてみましょう.
もう一度さきほどの自転車事故の類型表を見てみますと,近年ずっと続いていた自転車事故減少の動きを逸脱している項目が見つかるはずでして,それが怪しいわけです.
そういう目で下表をみると,
平成27年 交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況について 警察庁(2016)
このように,自転車事故における元々主因であった,車両相互における「出合い頭衝突」なのです.
出合い頭衝突事故はずっと減少の一途であったのに,ここにきて増加したわけですね.

話をまとめましょう.
昨年(平成27年)は自転車走行ルールを徹底して事故防止に務めたはずの年でした.
ところがその期待とは裏腹にに,自転車死亡事故は増加してしまいました.
この死亡事故の増加に特異的な動きは何か分析してみると,
「自転車単独事故(自爆)と,出合い頭衝突」
ということになります.

このことは,過去記事でも述べているように,
「自転車運転の取り締まり強化」という社会的な動きによって,自転車を運転する者(なかでも特に「高齢者」)の行動変化を促し,それが結果的に死亡事故を増加させることにつながった」ということになりはしないか?
という危惧が現実のものとなっているように思います.

さらに言えば,
「出合い頭衝突事故が増加してしまった」
という現象については,過去記事である■「自転車は車道を走らない方が安全だろう」でも述べた,
「自転車は車道を通る」を徹底させたり,
自動車道の直ぐ脇に自転車専用レーンを作っても,
死亡事故(重体に至る事故)を減らすことにはならない可能性がある
という懸念も当たってしまった可能性があります.事故が増える理由としては,
(車道を通ることを徹底したり)専用レーンを用意したところで,自転車がスピードを出すようになってしまって,結局,出合い頭や右左折時の事故が増えてしまう.なんてことになりはしないでしょうか
という理屈でした.

「たまたま今年は例外的に重大事故が増えただけ」ということであればいいのですけど,昨年6月から始まっている「自転車運転の取り締まり強化」は,良い方向を向いた方策だったとは思えないのです.

私が住んでいる周りだけの感覚ですけど,ここ最近は警察も「自転車運転のルール徹底」をしているとは思えません.
皆例年と変わりなく,歩道を走り,右側通行し,イヤホンをつけて走っています.

もともとそれで自転車事故が減ってきていたのですから,むしろルールの徹底によって自転車事故が増えたのではないかと思えるほどですが,実はそれを類推できるデータもあるんです.
それが下図.自転車死亡事故における,「自転車側の違反の有無」について示したものです.
平成27年 交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況について 警察庁(2016)より作成
残念なことに,「違反あり」による死亡者数がここ最近ずっと減少傾向にあったのに,昨年の平成27年は増加
取り締まったはずなのに増えていて,しかも死亡者数も増えている.
過去記事でも疑っていた,「環境が整っていないのに取り締まり強化だけすると,むしろ危険運転は増えてしまうのではないか?」ということが的中したのではないかと思わされます.

これはちょうど私達大学教員が,授業中の私語を止めさせて勉強がしっかりできるよう「私語の取り締まり」を強化したのに,むしろ私語は増えてしまい,しかも成績まで悪化したというのと一緒です.さらに皮肉を言えば,ここ最近は私語が減少傾向にあったはずなのに,という感じ.
でもこれは笑えません.

とは言え,これは昨年6月から始まったことによる影響を,1年を通してみているわけですので,今年(28年度)のデータがどうなるのか興味深いところです.