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保育のこれから

同じ教育問題のことなので,これまで書いてきた「大学のこれから」と共に話していきたいと思います.
保育所のことです.





最近また「保育所」のことが賑やかになってきているようです.
保育所問題を取り上げたブログが話題とのこと.
「保育園落ちた日本死ね」というのを聞いたことがあるでしょうか?
私は読んだことないんですけど,なんにせよ,話題とのことです.

保育所問題については,私もこれまでのブログ記事で何度か取り上げたことがあります.
近いところだと2年前の,
ベビーシッター事件から考える保育
もっと以前だと,3年前の
幼保一体化とか,子ども・子育て新システムとか
です.
ちなみに,「幼保一体化とか・・・」の記事は,いまだに一定数の閲覧数を稼ぎ続けているページでして,待機児童問題とそれに対する幼保一元化(幼保一体化)の動きを把握する上ではオススメなので御一読下さい.

さて,昨今また盛り上がりを見せてきた待機児童問題ですが,これについての政府の取り組みが杜撰ではないかというのが議論になっているようです.

まず待機児童についてですが,きれいにまとまった情報源としては
朝日新聞:「待機児童問題」
があります.
その状況を要約すれば,
(1)子供の数(出生率)が少なくなっているのに待機児童が増えている主因は,共働き世帯の増加 
(2)待機児童の85%が0〜2歳であり,3歳以上でなければ預けられない幼稚園では対応不可であるため,保育所の充実が求められている
(3)「待機児童」の算出方法が自治体で異なるため,実態把握が困難
というものです.

これに対し現政府はと言うと,
安倍首相、待機児童問題「万全を期す」「仕事と子育てが両立できるよう、働く方々の気持ちを受け止めながら、待機児童ゼロに向けて万全を期していきたい」と述べた。[産経新聞2016.3.14]
とのことです.

ただ,対策をすると言ってもいろいろと課題が山積しており,それらをまとめたブログもあります.
それがこちら↓
「保育園落ちた日本死ね」と叫んだ人に伝えたい、保育園が増えない理由

保育士養成課程に関わっていたことがある私としても,そこに書かれていることは概ね首肯できるものです.
上記ブログを要約すれば,
(1)保育所が少ないから待機児童が減らないというよりも,保育士が不足しているから対応できない(保育士一人あたりの子供数に限りがあるし,保育所をつくるにあたっても一定数の保育士が必要)
(2)保育士を増やしたくても,待遇が悪いためなり手がいない
(3)保育所の設置には数々の規制があるため,おいそれとつくれない
(4)待機児童問題を解決するためには,行政に不満をぶつけるべき!
ということです.
とは言え,待機児童問題の只中にある対象者のほとんどが,「0〜2歳の子供を持つ親」に限られているため,喉元過ぎれば熱さ忘れるじゃないですけど,大きな政治課題とならないままに過ぎ去る可能性があります.

そんな状況下にあって,では現政府は待機児童問題についてどのような答弁をしているのかというと,上述した『安倍首相、待機児童問題「万全を期す」』の記事中にもあるように,
7日の参院予算委では、福島瑞穂氏から「政策の失敗だ」と批判された首相が「政策の失敗というが、失敗ではなくて、福島委員が政権におられたときよりも(保育所の受け皿を)20万人、40万人増やしている」と色をなす場面もあった。[産経新聞2016.3.14]
ということです.
詳しくは,厚生労働省のPDFページである,
保育所等関連状況取りまとめ(平成27年4月1日)(厚生労働省)
に公表データが有りますので参照ください.

しかし,この安倍首相の答弁とその発言の趣旨には大きな問題点があります.
そしてこれは,私が以前より本ブログにおいて教育に関する問題でずっと指摘してきたことでもあります.
それは,「その組織(集団・部署等)が存在するに至った意義や社会的機能を十分に考慮した上で手を付けなければ,後々取り返しのつかないことになる」ということです.

まず,政府・安倍首相は「保育所を増やした」と受け取れるような言葉を発していますが,上述の産経新聞の記事中にもあるように,これは「保育所を増やした」のではなく,「保育(所)の受け皿を増やした」だけのことです
厚生労働省のページを読めばそれが分かります.リンク先に行くのが面倒な人のために以下に図を示します.
厚生労働省『保育所等関連状況取りまとめ』より(2016)
このように,いわゆる「保育所」は減り,代わりに「保育所っぽい施設」を「保育所」として合算し,提示してきたわけです.
「日本死ね」って言いたくなる気持ちも分からなくはない.そう思います.

しかし問題の本質はそこではなく,過去記事の■幼保一体化とか,子ども・子育て新システムとかでも指摘していることですが,こうした「保育所っぽいところを増やして対応すること自体が深刻な問題である」という点は見過ごしてはいけません.
細かい話は過去記事に譲るとして,「保育所としての機能を充実させず,とりあえず待機児童問題に対応するための規定事実を用意しただけでしょ」ということです.
つまり,保育所が存在する意義や社会的機能を十分に考慮せず,多くの人が納得しそうな対処をしてみせただけではないか,ということなのです.

これについては,冒頭でも紹介した待機児童問題の主因が「共働き世帯増加」であることを詳細に論ずる必要があります.

そもそも,保育所は入所条件として「保育に欠ける」というものがあります.児童福祉法によれば,
保護者の労働又は疾病その他の事由により、その監護すべき乳児、幼児その他の児童について保育を必要とする場合において、次項に定めるところによるほか、当該児童を保育所(認定こども園法第三条第一項 の認定を受けたもの及び同条第九項 の規定による公示がされたものを除く。)において保育しなければならない。(第24条)児童福祉法(←該当ページにリンクしてます)
とあります.法律の文章だからと難しく読む必要はない,簡単な話です.
つまり,保育所の存在意義というのは,本来ならば家庭で保育できたらいいのだけど,両親が共働きだったり片親だったり,もしくはなんらかの理由で親が保育できない状況下において,その「親がすべき保育を代わってくれる所」を我が国では用意しておきましょう,それが「保育所」ですよ,という位置付けなのです.

そのようなわけですから,待機児童問題の結論を急ぐならば,政府がすべきことは至ってシンプル.
「保育に欠ける世帯を減らすこと」
です.

ところが,その点について政府・安倍首相の発言をもう一度聞いてみると,
安倍首相、待機児童問題「万全を期す」仕事と子育てが両立できるよう、働く方々の気持ちを受け止めながら、待機児童ゼロに向けて万全を期していきたい」と述べた。[産経新聞2016.3.14]
保育に欠ける世帯を減らすつもりはないようです.
いえ,そんなことは前から分かっていたことですね.だって安倍政権は,
「一億総活躍社会」
を目指しているのですから.
一億総活躍相 工程表に先立ち待機児童対策検討へ加藤一億総活躍担当大臣は、匿名のブログをきっかけに待機児童を巡る議論が活発化していることについて、「待機児童の問題は、これまでも真摯(しんし)に受け止め、40万人分の保育の受け皿確保を前倒しし、さらに10万人分をかさ上げした」と述べました。[NHKニュース(2016年3月14日]
で,この「かさ上げされた40〜50万人分の保育の受け皿」というのはどうするのでしょう.
低賃金である保育士の枠だけ増やして,それで担い手が増えるとでも?

あっ,そう言えば,安倍政権の方針は以下のようなものでしたね.
首相「外国人受け入れ拡大を」 労働市場改革へ諮問会議で指示政府の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)は11日、人手不足が深刻な労働市場について議論した。首相は「外国人材の活用をしっかりと進めてほしい」と表明し、女性の就労意欲を阻む要因と指摘される「130万円の壁」の解消に関しても追加策の検討を指示した。[2016/3/12 日本経済新聞]
そうか,そういうことか・・・.


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そして以下の記事で指摘したことが再発するのです.
その繰り返し.