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専門職大学に思うところ(1)

昨年度末に,こんな話が出ていました.

以下,記事の抜粋↓,太字のところだけでも読んでみてください.
職業に必要な知識や技能を育成する高等教育機関のあり方を検討している文部科学省の有識者会議は18日、「専門職業大学」などの名称で新たな大学の類型を設け、国の助成対象とする報告をまとめた。修業年限は2~4年とし、学位も授与する。教育課程の優れた専門学校などが移行することを想定している。
(中略)
専門学校は教育内容の自由度が高い一方で、質にバラつきもあることから学位を授与できず、国からの助成もない。企業からは各分野の専門人材の養成を求める声が多く、政府の教育再生実行会議は昨年6月、より高い水準で職業教育を行う教育機関を創設するよう提言した。日本経済新聞(2015/3/18)
で,これについての文部科学省の関連ページが以下のリンク先↓
実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議(文部科学省)

 
 

当時はバカバカし過ぎて猛烈スルーしていた話題だったのですが,昨日,これについて他大学の先生と談笑したのでブログにも書くことにしました.


あと,本件に関連することは過去記事でも書いていたからスルーしたという側面もあるので,お暇でしたら本文末にリンクを貼っているのでどうぞ.


さて,
専門職の大学と言えば,「専門職大学院」という大失敗例がすぐに思い浮かぶわけですが,それについての反省は一切なく,同じ轍を踏むため邁進するようです.

どうしちゃったんでしょうね・・・.
なんでこんなにダイナミックに間違うのか,私には分かりませんよ.
もう,怒りを通り越して悲しいです.


ですが,悲しんでるわけにもいかないので,この流れを分析したいと思います.
なぜ有識者と言われる人たちが「専門職大学」なるものを望むようになったのか,そこが大事です.

これは以前,
ようするに,余裕のない現場が大学に求めている
で教員養成をテーマに書きましたが,それの企業版が今回の「専門職大学」の発想です.


新人教育する余裕がなくなったから,その新人教育を大学でやってほしい.
というのが根底にあるわけです.

もっと挑発的なことを言えば,この20年近く買い手市場だった就職氷河期にかこつけて,企業側に新人教育の手間を省こうという魂胆もあっただろうと推察しています.
これは無自覚的かもしれませんけど.


「大学に行ったのに,職業能力が高まっていないのはおかしい」
という人もいるかもしれません.
ですが,そもそも大学は職業能力を高めるところではありません.
誤解されやすいところですけど,これは何があっても譲ることができない大学の本質です.


そんな事言うと,少ないくない人がこんな返答をします.
「現実を見ろよ.大学は就職するために行くんだよ!学費に見合っただけのものを出せよ!」
ってね.


どうしてこれが間違っているのかということを話し始めると,かなり時間がかかります.
でも,時間がかかる話は聞きたがらない人が多いので,その話をすることもできません.
改めて書くのも面倒なので書きません(ご興味がある場合は本文末のリンク先をどうぞ).

もっと根本的なことを言ってしまえば,普通,多くの一般的な人々は「現実見ろよ.大学は就職するために行くんだよ!学費に見合っただけのものを出せよ!」っていう認識になるものなんです.

それは認めます.

それが人間というものなのです.


そして大学というのは,そういう認識をするに至ることが多い人間の,醜く,脆い思考力を鍛えるために存在しているのです.


「でも出来てないじゃーん」て言われることを覚悟で言っています.
はい.出来てません.

出来てないんですけど,なるだけそういう軽薄な思考をする人間を減らそうと努力しているのが,少なくない大学教員の本音です.


でもまぁ「出来てない」っていうのは自虐的過ぎるかもしれません.
なんとかしてる自負はあります.
ですが,全ての学生の思考力を鍛えきるには至っていない,そういうことです.


話を戻しましょう.
では,専門職大学を新設すれば企業が求める人材確保ができるのでしょうか?
より専門性の高かった「専門職大学院」が大コケしたのに,です.


そもそも「専門職大学」と呼称していますが,実のところ「専門職」ではないんです.
上記の文科省のリンク先で閲覧できますが,これはようするに,
「一般就職用の教育をする大学」
ということのようです.

ではなおさら疑問なのが,
「東大,京大,慶応大の卒業生よりも,◯◯専門職大学の卒業生を採用した方がいいよネッ」
ってなるのでしょうか?
かなり怪しいと思うんですけど.


いや,ならないでしょう.
大学の教育体制をいじくったからと言って,企業が喜ぶ人材を輩出することはできません.
企業で必要とされる能力は,その企業で身につくものです.


大学は企業の人事課のために存在しているわけではありません.
大げさな話ではなく,人類のために存在しているんです.


もっと言うなら,そんな専門職大学が出来たとして,どんな授業をするというのでしょうか?
文科省の資料にはこうあります.

「産業界と連携しつつ,どのような職業人にも必要な基本的な知識・能力とともに,実務経験に基づく最新の専門的・実践的な知識や技術を教育する」

そんなもののために,わざわざ学費を払って進学するのですか?

“実務経験に基づく最新の専門的・実践的な知識や技術” が学べるなんてウソでしょ.
完全に教育機関の説明として崩壊しています.
どっかの怪しい何とかスクールみたいです.

というか,それに似たような教育は,現時点の大学でも「キャリアセミナー」とか「インターンシップ」なんかでやっています.

あぁいうのって,根気よくやっても学生の学びとしては天井が見えるんですよね.

結局,その仕事において大事なところって,その仕事をしなきゃ分からないんです.

さらに言うなら,キャリアセミナーとかインターンに積極的でなくても社会に出て活躍している卒業生はたくさんいます.

だから大学としては,その学生がどのような職業,どのような役職,どのような人生を歩もうと,一人の立派な人間として生きるための思考力を授けることしかできませんし,それが最大の目標でもあるのです.

この話は長くなりそうなので,次回も続けます.


 
 

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