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いじめアンケート調査の問題についてのあれこれ

「いじめについて関心が下がってきたのでは?」
という記事を先月書いていたとこですが,さっそく蒸し返すようなニュースが出て来ました.
ご存知かと思いますが,以下の記事です.

 栃木県栃木市の市立小学校で、いじめに関するアンケートを実施した際、3年生を担当する30歳代の女性教諭が、いじめの申告件数が多くならないように児童を指導したうえで、回答させていたことが分かった。
 アンケートは、市がいじめの実態を把握するために市内の全小中学生を対象に無記名で行った。同小では今月4日に実施された。
 同小によると、女性教諭は、アンケート記入に先だって、担当のクラス全員に「いじめは一方的なもの。みんながしているからかいなどはケンカ。いじめと書くと多くなるので書かないように」と指導したという。
 また、女子児童の一人が、今年4月に同級生に鉛筆で腕を刺されたとして、「いじめあり」の欄に丸印をつけていたが、女性教諭はアンケート回収後に女子児童を呼び出し、いじめにあたらないなどと説明。ペンで「いじめではない」に丸印をつけ、本人が納得済みである旨も加筆したという。(2013年7月10日08時15分 読売新聞)

たしかに問題です.
この教員は批判されて当然で,何かのっぴきならない理由があるんなら聞いてみたいものです.
ちなみに,「同級生に鉛筆で腕を刺されたとして「いじめあり」の欄に丸印をつけた生徒ということに対し,この教諭が「いじめにあたらない」という判断をした,ということが “間違いだったかどうか” は,この記事から「不明」としか言えない」というくらいの “情報リテラシー(笑)” は持っていてくださいね.

上記のこの一文は,一見,ニュースに深く関わるエピソードのような気がするんだけど,ニュースの本筋とは実は何も関係のない “つぶやき” のようなものでして.これはマスコミがよくやるニュースへの「味付け」です.
「うわぁ〜,この子かわいそう.えぇ?そんなかわいそうな子のアンケートを改ざんしてるんじゃないの?この先生.けしからん」という論調にしたい想いが滲み出ちゃっています.
でも,詳細には事実関係を洗っていないので「〜したという」と,ぼかした書き方にして “逃げ道” を用意しておく,という用意周到(卑怯)なものです.
もし世間が「学校の先生が “いじめがあったのに” アンケートを改ざんしている!」という受け取り方を大袈裟に持ってしまったとしても,「実はそんなこと私は書いてませんよーだ」と逃げれるようにしておきつつ,そのような空気に誘導するメソッドです.
よくマスコミが多用するメソッドですので,気をつけましょう.

まぁそれでも,この教員の一連の行動は褒められたものではありませんがね.

それよりも,やっぱり多くのメディアや世論の論調が,
「学校・教育現場は隠蔽体質だ」
という,お定まりの優等生(というか,短絡的)な反応にがっかり.

「隠蔽体質だ」と主張する人の特徴は以下の3通りです.
(1)「で?ならどうすりゃいいの?」に答えられない
(2)とりあえず「抜本的改革が必要」とだけ言う
(3)「だから◯◯すればいい」の◯◯が極めて非現実的

最後の(3)ですが,どうするかっていうと,「加害者を厳罰にする」とか「警察と連携する」とか「いじめ専門職員を任用する」とか「クラスを流動的にする」とか「学級制度を廃止する」とか「法を厳正に適用する」とか「一般社会との交わり」とか.
もうね...,君達はアメリカ人か?と.
よくもまぁ安直なことを次々と発案するものです.

厳罰化・管理化したら水面下に隠れるし,深く潜るようになっちゃう.というか,そういう管理教育,生徒監視はダメだって少し前まで言ってたじゃん.

学級制度廃止?流動化?田舎の学校はどうすんの.今でも十分に流動化しとるし,むしろ学級が十分に作れなくて困っています.都会人の発想ですな.

法を厳正に適用...,一般社会との交わりねぇ...これまで世界中の人が長い年月をかけて,子供を一般社会から守るという理念のもと作り上げてきたはずの「学校」を,水泡に帰すつもりですね.すごいわぁ.というか「学校」がどのようにして出来たものなのかくらいは勉強してください.

どうしてもというなら,私としては,
「世界中を調査し,『いじめの無い学校』とやらを見つけて,そこの制度を参考にする」
という,自分で言うのもなんですが,極めて建設的かつ有機的な意見を出したいと思います.
※一生かかっても見つからないでしょうけどね.

話を学校の隠蔽体質について戻します.
まず大前提として,誤解を恐れずに言うと学校というのは隠蔽することが多いところです.隠蔽しなければけいないことがたくさんあります.
隠蔽体質なのは当たり前です.
ある程度の透明化は必要かもしれませんが,ガラス張りな教育ほど怖いものはありません.残念ながらここでの詳細は割愛しますが,ガラス張りの教育って,考えるだけでも「いじめ」を頻発させそうですね.
どこからどこまでを公表・説明すればよいものか.生徒の一生に響くことかもしれないものを扱っているんですよ.そんなに簡単に判断できるものではありません.よって,「とりあえず伏せとく」という判断になるのは当然です.
多くの人が考えているほど,学校教育というのは明るく陽気な仕事ではありません.そういう組織です.これはご理解お願いします.

次に,こうした「いじめアンケート」という調査企画が持っている「作用」について.
「生徒に対するいじめアンケート」という妥当性と改善効果のほどが怪しい(つまり意味不明な)調査がブームとなっているようですが,まぁ,そこは突っ込まないにしても.
そもそも,いじめ把握のための調査をするとして,
「本校にいじめは存在しない」
という状態を作り出さなきゃいけないシステムになっていることが諸悪の根源ということを忘れてはいけません.

「いじめがあった」という調査結果が出たら,どうせ保護者や外野は大騒ぎするのです.
酔っ払いオヤジの如く,なんの建設的な意見もつむがない後ろ向きな批判を浴びせまくって,学校関係者にからみまくることは火を見るより明らかです.

だから学校としては「本校にいじめは存在しない」という結果をでっちあげる.これは当然の流れです.「おまえら,それでも教育者か!」と言われようが,教育者だって人間です.あなたと変わりはないのです.

それともなんですか.「学校の先生」というのは超人なのですか?
であれば,ぜひとも日本人全員を教員養成課程のある大学に「義務教育」として通学させましょう.素晴らしい世の中になりますね.ところでその際は,ぜひ本学に.

・・・冗談です.

「どんなところにも「いじめ」は存在する」というのは,学校現場では...,というか人間社会では当たり前なのですが,どうしても「無い」ことにしたい “空気” があります.
これは日本における一種の集団ヒステリーだと言ってもよいでしょう.異常ですよ.

「どんなところにも「いじめ」は存在する」という,ごくごく当たり前のことを認めるところからスタートしなければならないのではないでしょうか.
これについての細かいことは過去記事である,
いじめ問題は解決できるものでもない
を参照ください.

あと,ついでに文部科学省のサイトも.
「いじめ」理解のヒント
かなり細かく書いているのがシュール.