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エクササイズからスポーツへ

「運動(エクササイズ)とスポーツの違いはなんでしょう?」
という質問を学生にすることがあります.

「体育とスポーツの違いは?」と続けて問うこともあります.

この違いについては「なんとなく」分かったつもりになっている人が多いものの,いざ答えるとなると意外と難しい問いでもあります.

その違いはWikipediaや専門書を見ればわかるのですが,ざっと言うと
運動(エクササイズ)」というのは何らかの目的があって(または目的なく)行われる身体運動全般のこと.
スポーツ」はルールや規則に則って行われる遊戯的かつ競争的な身体運動を伴う活動のこと.
そして「体育」というのは,スポーツや運動(エクササイズ)を用いた(用いることが多い)教育(科目)のことです.

研究者や国によって意味に若干の違いはあれど,上記のような感じになります.


ところで,このグラフを出すのはこれで3回目になりますが,今回は「コンクリートから人へ」ならぬ「運動(エクササイズ)からスポーツへ」というテーマで一つ書きましょう.

どうせだからってんで,もう一枚グラフを用意しました.
その他,メジャーなスポーツの参加人数を平成14年(2002年)から平成22年(2010年)まで示したものです.
いずれも公益財団法人日本生産性本部 編『レジャー白書2011』からの引用です.


我が国は球技やスキー,水泳といった “スポーツ” が軒並み参加人数を減らしています.

参加人数が減っているものをピックアップしているわけではないですよ.
これ以外のほぼ全てのスポーツが参加人数を減らしています.

それとは逆に,ジョギングとかトレーニングといった,どちらかというと “エクササイズ” とか “フィットネス” という表現が似合う分野が好調です.

フィットネスは私が関わっている分野でもあるため気分はいいのですが,そんな私からして,
フィットネス・エクササイズの分野が伸びてスポーツが落ち込んでいるのは,大局的に捉えればスポーツ・レジャーの終わりの始まりだ.
と考えているのです.

というのも,前回の記事
コンクリートからスポーツへ
とつながっているのですが,ジョギングとかトレーニングが伸びている要因の一つとして,
「あまりお金をかけなくてもできる」
ということがあります.

つまり,スポーツ・レジャーにはお金をかけたくない,という意図が反映されている可能性が高いのです.

スポーツ・レジャーってのは,デフレの影響をモロに受けます.
各種企業で真っ先に切り捨てられるのがスポーツクラブチームだったりします.


少子高齢化しているのだから,“参加人数” は減っていても “参加率” は変わっていないのではないか?
というご指摘もあるかと思いますので,参加率(1年間で,その種目に参加したことがあるかどうかの割合)も示しておきます.
平成16年(2004年)〜平成22年(2010年)までの推移です.

参加率として表しても,参加人数のグラフとほぼ同様の動きをしていることが分かります.



さて,ここからが本題です.
フィットネスの好調が,実は好ましくない傾向だと私が考えている理由は,
「本当の意味で国民の健康が得られない」
からです.

近年,ジョギングやトレーニングが伸びている要因の一つとして,先程は「経済的理由」を挙げましたが,この流れを作っている要因はもう一つあると考えています.

健康日本21や生活習慣病予防(現在はメタボ対策と呼ばれている)といった,行政も介入している「健康啓蒙活動」です.

そしてこの健康啓蒙活動で指導されるのは,「テキスト的な健康運動」であり,皮肉を言えばスポーツ指導の専門家が冷遇され,お医者さんが指導する「手垢にまみれた健康運動」です.

ここで問題なのは,こうした健康啓蒙活動で推奨されるのは科学的エビデンスに基づく 「運動」 になってしまうこと.
体を動かす楽しみを味わう 「スポーツ」 ではないのです.

たしかに行政が介入する啓蒙活動ですから,どうしても “科学的エビデンスに基づく” 内容にしなければいけないことは分かります.

こうした「健康のために運動を」の流れを受けて「ジョギング」や「トレーニング」への参加者が増加している可能性が高いですね.

しかし,先程あげた「本当の意味での国民の健康」を目指すためには,それでは限界があるのではないかと思うのです.

実際,国をあげた健康啓蒙活動の一つである「健康日本21」の最終結果報告を見ても,国民に運動習慣がついたとは言えません.

健康日本21では,1回30分以上の運動を,週2回以上実施し,1年以上継続しているものを「運動習慣者」と定義し(2000年時点の調査では男性28.6%,女性24.6%だった),2010年までにこの運動習慣者を男性39%,女性35%まで増加させることを目標としていました.

しかし,2010年の最終結果報告では男性32.2%,女性27.0%で,目標は達成できていません.
まぁ,ちょっとは増えたからいいか,ということもありますが.

それでも,これから先もっと運動習慣者を増やそうと考えると,考え方の転換が必要です.
「健康を目指した運動」といった “「運動」を主体とした活動” ではなく,「運動そのものを楽しんで健康」といった “「スポーツ」を主体とした活動” への転換です.

それこそが,本当の意味での身体運動を伴う健康なのではないのでしょうか.

別に「医者が指導する運動では効果が出ない」と言っているのではありません.
運動の楽しさを伝えるのはスポーツ指導者に任せればよいのでは?ということです.

なんでもかんでも医者に任せてしまう風潮もよくないのです.
あと,医科学者ヅラしたスポーツ指導者が,“運動処方” とかお医者さんゴッコしてるのもムカつきますし....

おっと,話がズレてきたので,今日はこのへんで.