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数学が苦手な者の意見として


私はいわゆる “分数ができない大学生” という種族に分類されるので,数学にはコンプレックスがあります.
コンプレックスというなら聞こえがいいですが,つまりは苦手なんですね.
なるべく計算や統計処理は 「EXCEL」 とか 「SPSS」 といった計算・統計ソフトを利用してしのいでいます.

それでも,「出来ないよりは出来た方がマシだろう」 と考えるマトモな価値観は持ち合わせているので,以前から数学や統計学の本を集めてはいたのですが.そんな中で,買ってはいたけどページをめくったことがない本もありまして.

なので今日は,芳沢光雄 著 『算数・数学が得意になる本』 というのに挑んでみました.
アマゾン・レビューもすこぶる高く,てっきり「本当に数学が得意になったらどうしよー♪」と,ワクワクしながら読んでいったのですが...

違う意味で有意義な本でした.
読み進めていっても,とにかく著者の説明に対し 「???」 な部分が多く,「もうちょっと別の言い方があるだろうに」 と,差し出がましくも適切とは思えない論旨に腹も立ってくるほど.

んで,特に難解だったのが 「分数の割り算」 を説明した部分.本の帯にも紹介されているほど,この本の目玉となる部分なんでしょうが,とにかくチンプンカンプン.

「ゆえに」とか「このことから」などと,著者としては丁寧に解きほぐしているようなのですが,数学が出来ない私としては「だからなんで『ゆえに』とか『このことから』になるんだ?」と頭を悩ましてしまうわけで.

んで,その章の最後に「『分数ができない大学生』の分担執筆者のひとりである私としては,・・・・」という一文が.
膝を打って,「だからかー!」と,違うところで納得.

数学ができる人ってのは,できない人がどこで悩んでいるのかが解らないのだと確信しました.
悩むポイントとでもいいましょうか.それがお互い理解できていないから分かり合えないのかなと思います.

どこかの誰かが書いた本にありましたが,「日本の数学教育は『証明』に重きを置いている.『利用』するための視点は薄い」 というのを見たことがあります.
物を数えたり大きさを測ったり,出来事を予測したりするための数学ではないんですね.あくまで「数学」です.

以前,今勤めている大学の数学を専門にされている先生から 「日本は優秀な数学者が多い」 と聞いたことがあります.実際そのようです.
日本の数学教育が,小中高とガチで数学の教育をしているからなのでは?と考えさせられます.

芳沢氏は,上で挙げた分数の割り算の章でこう述べています.

「『3枚のピザをそれぞれ4等分しました.切り分けたピザを一つの皿に3切れずつ乗せていくと,皿は何枚になるか』
答えは切り分けたピザの絵を描いてやれば「12÷3」で簡単に出てきますが,小学生でもわかるように,次のような分数を含んだ式にして説明してやります.
[ 3÷(1/4×3) = 3÷3/4=4 ]
このような具体例をいくつか示すのです.」
・・・・・,
意味不明です.
私に言わせれば,説明の順序が逆なのです.
[ 3÷(1/4×3) = 3÷3/4=4 ]
という「式」がどのような状況かを説明するために,ピザの話をすればいいわけで.

こんな思考ができること自体,数学,そして分数をしっかりと,もしくは直感的に理解できている人の思考です.

普通,このピザの話に出てくるような状況では,まず,ピザの総数は何枚になるか?それを3枚ずつにすると何個のグループになるのか?という順序の思考になるはず.
氏も書かれている文中にあるような 「 12÷3 」 という考え方が素直なはずですよ.
ここだけではなく,こういったつっこみを入れたくなる部分はこの本に結構ありました.

思うんですけど,分数の計算でつまずく人が本当に解らないポイントってのは,計算方法とかじゃなくって『分数』それ自体かと.
だってねぇ・・,なんですかこの 「1/3(さんぶんのいち)とか,4/1(いちぶんのよん)」 って,この得体の知れないものは.
「1/2」などと,これだけ出されても,分数・数学の思考ができない人には...,なんと言いますか,「拠り所」がないのですよ.

これは計算するための表現体ではありません.計算“も”できるものとして,それこそ“割り切って” 捉えたほうがすっきりします.

分数を学ぶための目的は,「問題解決」ではなく「状況説明」という視点ではないでしょうか.

だって,例えば投票率30%という状況をニュースにする時,
「1/3の人が投票に向かいました」
と“表現”するけど,前年と比べた場合といったような話をする時には,
「昨年40%で,今年30%ですので,10ポイントの低下ですね」
というふうにするでしょ.間違っても,
「昨年2/5で,今年は1/3ですので,約0.1の低下ですね」
なんてニュースは読みません.

分数が役立つのは,あくまで事象を表現する時です.
アナログな表現として,感覚的に理解させたい場合だと思います.
絵画的,彫刻的とも言えるでしょうか.

例えば,アナログ時計とデジタル時計を比べると良いでしょう.
アナログ時計の方が時間感覚を掴みやすいのは,「長針が文字盤を何分割しているのか」という表現が成されていること,すなわち「分数」として機能しているからに他なりません.


もっと言えば,子ども達には 「分数で計算する」 というような状況を回避する方法を教えるのが得策なのです.“分数が計算に役に立つ状況”なんて数学研究以外では有り得ません.

1/2÷3/4なら,0.5÷0.75で計算する状況の方が多いはずだし,電卓や計算ソフトを使った複雑な計算が求められる現代社会においては重要な視点になるかと考えられます.

むしろ,そういう視点と目的で教えないと分数を学ぶ意義は損なわれる,というのが,この芳沢氏の本を読んで得た私の持論です.